小説 『推しの転生者 星野くん 』

 

前世の記憶を持ったまま生まれ変わる転生という現象がある。宇宙は広く、その仕組みを科学的に解析した種族がいた。その知識は長く隠されたが、時間と共に広がった広がった。

 

銀河が重なったエリアでは、転生も銀河間を交差して起きていた。

 

この技術を悪用して、オツムが未発達な下等生物しかいない惑星に転生して、王侯貴族になっている連中もおり、これが宇宙で大きな問題になっていた。この転生技術が優れているのは、空間を超えて拠点を作れる点だ。

 

物質は送れないが転生と干渉波だけは送れる地域はたくさんある。老獪で悪質な種族がまだ幼くピュアな種族を蝕むのを防ぐため、銀河連邦は優秀な人材を集めて魂の汚染が酷い星域に、賢者や聖人を転生させる事業を始めた。

 

ひとつ問題があった、転生には死を伴う。犯罪者が追い詰められて転生機に入ることはあるが、家族がおり人生が満たされている人間が命を捨て転生機に入ることは稀だ。それに、だらしない半端者がいくら転生してもその星域にポジティブな影響が与えることはない。強い意志を持った魂だけが、転生後に周辺に影響を与えることができる。

 

私の名はマサル。銀河連邦の管理する転生器のマシンオペレータだ。確実に狙った個体の受精卵に転生させることが出来るプロフェッショナル。ただ、ここ最近は失恋して心神喪失状態にあった。

 

繰り返された転生事業の失敗のあと、未開惑星ヘの転生者は、銀河連邦が認めた聖人と賢者に限られた。なかなか人材が集まらない中、死期が近づいた高名な大賢者が現れた。

 

大賢者様は何を思ったか、よりにもよって野蛮でオツムが弱い種がいることで有名な太陽系地球に転生機をセットした。大賢者様はあまりにも高名で偉かったので、何か深い意味があるのだろうと思い誰も止めなかった。

 

私はカプセルに入って眠っている大賢者様を横目に、転生機を動かした。大賢者様は、惑星地球の日本のある高名な家に転生するはずだった。

 

だが、心神喪失状態の私は今世紀最大の失敗をして、別の女性の子宮に大賢者様を転生させてしまった。このことはもちろん上司にバレたが、誰もこれを公にしようとせず、それが、世間に広く知られたのは転生した受精卵が胎児になり、転生先の妊婦が出産間近になってからだった。

 

大賢者様の転生ミスはショッキングなニュースとして宇宙に広がった。私たちが大賢者様を(間違えて)転生させたのは、星野家というごく普通の家庭だった。そして、星野家の赤ちゃんは無事に生まれた。

 

銀河連邦は総力を上げて、この生まれた星野まもる君を無事に高名な賢者に育て上げて、転生した犯罪者共や敵対勢力の推しメン転生者を権力の座から落とすことに決めた。

 

高名な大賢者様の転生体だけあって、星野くんの成長記録はなかなかの人気で、それに伴い、地球という惑星に興味を持つ者も増えた。だが、大きな問題があった。

 

我々が地球に転生したチンピラ共以外に、様々な地域からの転生者を把握している様に、各勢力が他の勢力の転生者を把握していた。まるで多人数で行う遠隔多色囲碁だ。

 

それぞれが文明圏が推しの転生者を持っていた。自然と様々なルールが作られたが、守らない勢力もいた。後ろ盾を持たない転生者の内、通信システムを持たない個体は、過去の記録をやがて失って人類に同化した。

 

こうして、各々の勢力が推しメン転生者に権力を与えるために、人類に干渉を始めた。

 

星野くんは、さすが大賢者様の転生者だけあって神童といわれた。このまま何もしなければ、星野くんは前世の記憶を失う。そこで、ある記憶保持機能を持つ特殊装置を起動した。これで、大賢者様はあらかじめ自分で用意していたデータにもアクセス可能になり記憶は保たれる。我々とも相互通信が可能になった。

 

小さな大賢者様は、私たちの転生座標の間違いを笑って許した。小さな大賢者様=星野くんは過去にこの地に転生していたあらゆる勢力の聖者と賢者、救世主のデータはもちろん、人類オリジナルの聖者と賢者、救世主のデータを学習した。全ては大賢者様の下準備のおかげだった。

 

星野くんは優しい両親の元、すくすくと育った。そして、月日が流れた…。

 

成人した星野くんは、地球を一周するといい始めた。それはとても大変な作業を生んだ。転生者が少ない時代なら簡単だが、現在は違う。

 

あらゆる銀河が細い糸をこの小さな惑星に垂らしている。結局、その地球一周の旅は実行されることになった。人類の救世主になるべく相応しい様々な演出も用意された。こうして、私たちは星野くんとハラハラドキドキの冒険を共にした。

 

冒険の途中で、様々な勢力の推しメン転生者とも出会い、多彩なイベントを共同で起こした。ある転生者は哲学者であり、ある転生者は詩人だった。分かりやすい転生救世主の多くは、地上で生の人間と触れ合う内に、あまりのバカバカしさに嫌になった。

 

中には宇宙船に乗り自分の星系に帰還した転生者もいた。だが、星野くんは我慢強く自らを犠牲にして、人々に知恵と救いを与えた。

 

先に転生して王族を独占していた者たちが、全ての人類を検閲して、転生者探しを始めた。転生者の魂を古い(人類にとっては新しい)技術で縛り始めたのだ。地球に転生した転生者を殺すと、同じ地球の別の場所に転生する可能性が0ではないため、魂を縛り長く幽閉する手法をとった。

 

もちろん文明の差というものがある。彼らはあまりに長く人間をやって自らの立ち位置を忘れたようだ。大賢者様が転生した星野くんは、銀河連邦中枢の技術で魂が守られている。彼らは、見つけたのではなく、私たちに見つかったのだった。

 

私たちと星野くん、それに志を同じくする転生者とその保護者たちは、じわじわと人類に隠された歴史の真実を与えた。ゆっくりと古い転生者に本来の位置を思い出させた。

 

人類の最上位権力にいた古い転生者たちは発狂して、星野くんや他の転生者に戦争を仕掛けた。だが、彼らの戦争はその目的に達することありえない。私たちは彼らと繋がる糸を手繰り、それぞれの銀河に魂を返した。彼らはただの人間になった。

 

星野くんは、その後も世界を冒険して多くの書物を残した。冒険の途中で女性と結婚して、2人の子どもを残したあとあっけなく亡くなった。その魂は遺言で回収していないため、また地球のどこかに転生する可能性もある。

 

私たちは時間をかけて、腐敗した転生者の魂をそれぞれの銀河に返したが、果たしてこれは良いことなのか、間違っているのか悩んだ。ある犯罪者の転生者はこの地では幸福に暮らし、かつての聖者の転生者が不幸にも貧しい暮らしをしていることもあった。

 

私たちは話し合い、最も腐敗した系統を除き、過度な干渉はしないことにした。同時に、推しメン転生者の数も時間をかけて制限した。

 

星野くんの冒険の記録は、今も私の手元にある。転生した星野くんが地球で生み出した書籍と共に。それにしても、世界はままならぬものだ。

 

様々な文明圏の転生者による多色囲碁の譜面は後の時代に生かされるはずだったが、新たな新規参入者が増えるたび、より困難な調整が求められた。転生者星野くんの子孫は、それぞれ家庭を持ち、偉大な父の出自を知ることもなく平穏な暮らしを続けている。